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キェ―――
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[イルカとクジラ]

・イルカの仲間は約70種である。
 そのうち、ウォッチングする機会があるイルカは16種である。

・イルカもクジラも「クジラ目」に属する哺乳類の仲間である。

・クジラ目はさらに、口腔にくじらひげを持つ「ヒゲクジラ亜目」と、歯のある「ハクジラ亜目」に大別される。

・一般的に、ヒゲクジラおよびハクジラのうち大型種を「クジラ」と呼ぶ。
 ハクジラのうち、比較的小型の種類を「イルカ」と呼ぶ。
 つまり、イルカは小型ハクジラ類の総称である。

・大型と小型の判断は体長4m程度を境とするのが普通であるが、根拠はない。



[海と陸]

・水中の音は空気中とは比べ物にならないくらい鋭敏な特性を持つ。
 空気中の音速は約340m/sなのに対して、水中の音速は約1500m/sと、約5倍の速さで伝わる。
 また、水中では音の減衰も少ないため、かなり遠くまで音が届く。
 水中は音の世界である。水中では「一見」よりも「百聞」の方が勝っている。

・海や河は透明度が悪く、当然、視覚による情報取得も制限される。

・海洋生物が視覚よりも聴覚を発達させるのは、環境から見ても当然である。



[可聴域]

・以下のように、他の動物と比較して、イルカやクジラの聴力は非常に優れている。
 ・ヒト:15-20kHz
 ・サル:33kHz
 ・ネコ:50kHz
 ・ハツカネズミ:90kHz
 ・クジラ:153kHz
 ・コウモリ:175kH
 ・イルカ:200kHz

・可聴域の範囲の音でも、聞き取りやすい高さの音がある。
 ヒトの話し声は、0.06-1kHzである。
 それに対して、イルカは30-80kHzの帯域の感度が良いとされている。



[音源定位]

・イルカの音源定位能力は優れており、水平方向は2.7度、垂直方向は2.3度まで識別できるとされている。
 これがクリックのようなパルス音の場合だと、さらに1.0度程度まで精度が上がる。

・陸棲動物では、草食動物よりも肉食動物が優れている傾向がある。
 イルカは他の動物よりも音源定位能力が優秀である。

・ちなみに、ヒトもなかなか秀でており、約1.3度である。



[エコーロケーション]

・クジラやイルカの発する音は、次の3つに大別される。
 ・クリック(click):0.001-0.01秒と非常に短い継続音。周波数帯は15-200kHzと幅広い。エコーロケーション用。
 ・ホイッスル(whistle):口笛に似た抑揚のある長い連続音。会話用。
 ・バーク(bark):吼えるような、呻くような、複雑な共鳴音。本能的なもの。脅しや求愛用。

・イルカのエコーロケーションはソナーと同じ役割をする能力である。
 対象物までの距離、対象物の形、大きさ、材質の違い、構造の違いといった物理的特性や、運動速度や方向も認識することができる。

・イルカは状況に応じて発する音の性質や出し方を調整している。
 遠くにあるものや雑音の多い環境での探索では音圧を上げたり、近いものの探索では発射音の頻度を調節する必要がある。

・実験では、70m離れた距離から直径2.5cmの金属球の有無を認識したり、100m先にある7.6cmの金属球を正しく認識できた。
 また、8mの距離で0.0085mmの違いを認識したという驚異的な記録もある。

・クリック音の発生場所は鼻道にある気嚢(きのう)という説が主流である。
 喉頭部とする説もある。
 気嚢説とは、鼻道の途中にあるいくつかの空気の袋に空気を出し入れする際にクリックが発生するというものである。

・気嚢から発せられて後方に向かった音は、頭骨によってパラボラアンテナのように前方へ反射される。
 前方に向かった音と反射音は、頭部前部にある「メロン」と呼ばれる脂肪組織に入る。
 メロンは特異的な構造になっていて、ここに入った音は前方に集中するように脂肪の密度が変化している。
 ちょうど、音のレンズとも言うべき組織である。

・反射音は、下顎の脂肪組織に入る。
 この脂肪組織はメロンと同様、音の伝搬特性がきわめて優れている。
 ここに入った音はそのまま鼓膜を振動させ、中耳、内耳へと伝わる。



[耳の構造]

・イルカの内耳の構造は基本的にヒトと類似しているため、音が感覚される仕組みも共通である。
 ただ、ヒトと違って中耳と内耳がいずれも頭骨から分離独立しているため、自分の発した音が直接中耳や内耳へ達することはない。
 これは大変好都合で、余計な振動が伝わらず、精度の良い音感が保たれる。

・外耳道は入り口から分厚い皮脂と肉で1/3は塞がっているが、完全に詰まってる訳ではない。
 塞がっている部分の管の直径は、1-5mmと非常に狭い。
 しかし、内耳に近づくにつれて太くなり、鼓膜の所で5cmほどの管となる。

・外耳道の終点の鼓膜の外側には、蠟栓(ろうせん)と呼ばれる円錐形の耳あかが付着している。
 これは外耳道の表皮から分泌された物質が角質状に固まったもので、牛の角や人間の爪に似ている。
 シロナガスクジラの耳あかは、幅が4cm、長さが10cmにもなる。
 この耳あかが優れた音の伝導体になっている。

・外耳道の長さは、大型のクジラで1mある。



[視覚]

・ヒトは「視覚の動物」と言われる。
 そもそも、光は電磁波であり、その中でも波長380-780nmの帯域を可視光として見て感じることができる。
 言い換えると、私たちの視覚は光のわずかの波長の違いを色として感じているにすぎない。

・「可視光」はあくまでヒトが感じることができる範囲の波長帯域を指す。
 ヒトは「紫外線」や「赤外線」を感じることはできないが、他の動物は感じることができるものもいる。
 例えば、ヘビの仲間は紫外線を感知できるし、チョウは赤外線が見える。

・イルカに限らず、眼の基本的な構造は脊椎動物ではほぼ共通である。
 ヒトの眼にある構造はイルカの眼にもある。
 しかし、構成物それぞれの大きさ、数、厚さといった定量的な特徴に微妙な差異がある。

・角膜の密度は水とほとんど同じなので、水中では角膜は無いに等しい存在となる。

・ヒトの瞳孔は円形だが、クジラ類では三日月状をしているものが多い。
 ヒトと同じく、瞳孔は周囲の明るさに応じて大きさを変えるが、イルカの瞳孔は前後2本の細い線に分離される。

・イルカの網膜上の視細胞は、錐体細胞と比較して桿体細胞が圧倒的に多い。
 そのため、暗い所で見るのに適している反面、色覚が弱い可能性を示す。

・イルカの視細胞の分布は不思議である。
 ヒトでは、眼底の1ヵ所に細胞が集中しているが、イルカは高密度の領域が2ヵ所ある。
 高密度の領域は眼底を挟んで約60度前後離れた場所に位置している。
 イルカたちは、前方と斜め後方の2方向が「同時に」よく見えている。
 
・行動実験から、イルカの視力は約0.1であると推定される。

・イルカの聴覚は素晴らしく、ヒトがはるかに及ばないことは事実である。
 しかし、イルカの聴覚を崇拝するあまり、「イルカの視覚は劣っている」と思い込むのは大きな誤りである。



[視覚と聴覚]

・クリックの発射頻度は一定ではなく、全くクリックを出していない時間帯もある。
 つまり、常にエコーロケーションをして周囲を探査している訳ではない。
 音一辺倒という訳でなく、「見たり聞いたり」しているということである。
 「見えること」と「聞こえること」には一定の関係がある。

・最良視野範囲と音源定位範囲には直線的な相関関係がある。
 すなわち、一点集中的な視野を持つ動物はわずかな距離の音源まで識別できる傾向がある。
 対して視野が広い動物は音源定位能力が悪い。

・イルカは他の動物と比較して傾向が顕著に異なり、最良視野範囲は広く、音源定位能力も高いという異常値を示す。
 これは、水中における光環境と音環境の特性の差を反映している可能性がある。

・ヒトは一点集中型の視覚を持ち、音源定位能力も鋭い。

・眼で見たものとエコーロケーションで感じたものとは、果たして同じようにイメージされているのだろうか?
 ハワイ大学のLMハーマン博士が視覚と聴覚の統合の実験をした結果、視覚と聴覚はきちんと統合されていると結論づけた。



[コミュニケーション]

・何百頭という群れを作って泳ぐイルカは、それぞれの個体を識別可能な固有の音波信号のパターンを持つ。

・しかし、音波信号によるコミュニケーション・システムは、高度に発達した段階にはないという説が有力である。
 その根拠となっているのは「意思の欠落」である。
 イルカは自分とその環境についての情報を発信するが、その中に意思は含まれない。
 したがって、仲間同士の「対話」はない。
 
・また、意思の他に2次情報を発信する能力も欠けている。
 「誰が」「どこで」「何を」という情報は発信できるが、「いつ」「どのようにして」「なぜ」という情報は発信できない。
 仮に、これらが可能になると、「個体識別音」から「イルカ語」に格上げになる訳である。



[Tips]

・海の生物はみんなおしゃべりである。
 一番のおしゃべりと思われるのが、シロイルカである。
 イギリスではシロイルカを「海のカナリア」と呼び、ソ連ではうるさい人を「シロイルカのような人」と呼ぶ。

・ザトウクジラのオスは、繁殖期に「ソング」と呼ばれる音波信号を発する。
 「ユニット」と呼ばれるそれぞれの音が繰り返されて「フレーズ」を構成する。
 さらにそれらが「テーマ」としてまとめられ、規則性を持って繰り返されるため「ソング」と呼ばれる。
 ソングは、オスがメスに向けて発する説と、ライバルのオスに向けて自分の優位を誇示する説がある。

・眼に論理はあまりない。百聞は一見にしかずである。見ればわかる。これは論理ではない。明証である。
 ところが、耳は時間を追う。聴覚は論理的思考に近い。

・アリストテレスは、クジラとイルカの行動と体を本格的に研究した最初の人物である。
 彼の研究記録には不正確な部分もあるが、こと解剖と生理に関する記述はほとんど正確である。
 そのため、アリストテレスはクジラやイルカを自らの手で解体して調査した可能性が高い。

・クジラやイルカが声を出すことが分かったのは、第二次世界大戦中のことである。
 当時、アメリカは長い海岸線を敵の潜水艦攻撃から守るために、水中測音装置を設置して警戒にあたった。
 ところが、あらゆる箇所から不審音をキャッチしたとの報告があり、大型海洋生物の通信と推定した。
 以降、アメリカ海軍はイルカに興味を抱き、イルカを「海の軍用犬」として使う可能性を研究し続けている。



[参考]

「日本人のクジラ学」, 梅崎義人, 1988.
「クジラ 海を泳ぐ頭脳」, 1994.
「イルカ・ウォッチング」, 中村康夫, 1995.
「イルカが知りたい」, 村山司, 2003.
「クジラ&イルカ 生態ビジュアル図鑑」, 水口博也, 2013.





[一般知識]
 ・ほとんどのカエルは、前足の指が4本、後足の指が5本。
 ・カエルの粘液には毒が含まれることが多い。
 ・カエルは肋骨や横隔膜がないので、肺と口の間で空気を往復させて、途中にある声帯を震わせ、鳴く。
 ・発情期のオスは、近くに存在する適当な大きさの物体には何にでも包接する。
  ・まず抱いてから判断する。
  
 ・日本には43種類のカエルがいる。
 ・ガマガエルはヒキガエルの別名。
 ・アマガエルは、体の色を環境に合わせて変えられる。
  ・黄色・虹色・黒色を示す3色の細胞を持つ。

 ・ウシガエルは、食用としてアメリカから世界各地に移入された。
  ・日本各地の生態系を破壊している。

 ・トノサマガエルは、農耕文化による水田の広まりに伴って広まった。
 ・ヤドクガエルは、1匹で大量の人間を殺すことができる。


[好きな科]
 ・ヒキガエル科:ベタなカエルって感じ。
  ・ぼつぼつがあって気持ち悪い。

 ・アマガエル科:目がくりくりして愛嬌がある。
  ・種類が多い。

 ・アカガエル科:これもベタなカエルっていう感じ。
  ・ウシガエル・トノサマガエル・ツチガエルは、アカガエル科の一種らしい。
  ・ヒキガエル科とアマガエル科の中間っぽい。

 ・ヤドクガエル科:細身で色がおしゃれ。
 ・マダガスカルガエル科:これも細身で色がおしゃれ。


[ヤバ種]
 ・トマトガエル
  ・ルックスもやばいが、メスがオスの2倍近くもある極端な「性的二形」を示すのもやばい。
   

 ・ピパ
  ・ルックスと名前がやばい。
   

 ・キオビヤドクガエル・コバルトヤドクガエル・イチゴヤドクガエル・ソメワケヤドクガエル
  ・造形と色がおしゃれ。
   

 ・アカメアマガエル
  ・よく見るが、Popでかわいい。
  ・スパーレルアカメアマガエルも良い。
   

 ・アズマヒキガエル
  ・近所に住んでいる奴はこいつと思われる。
   

 ・ニホンアマガエル・ヨーロッパアマガエル
  ・ザ・カエルって感じ。
   

 ・ニコルスカトリックガエル
  ・本多先生に似ている。
   

 ・カメガエル
  ・ルックスがやばすぎる。
  ・もっぱらシロアリを食べる。
   


[おまけ]
 ・人を不安にさせるハンガー
  

  動画コンテンツ出していきます。




津田

・彼の眼には必然の結果としていつでも軽い疑いの雲がかかった。それが臆病にも見えた。注意深くも見えた。または自衛的に慢ぶる神経の光を放つかのごとくにも見えた。最後に、「思慮に充ちた不安」とでも形容してしかるべき一種の匂も帯びていた。
・津田は女に穢ないものを見せるのが嫌な男であった。ことに自分の穢ないところを見せるは厭であった。もっと押しつめていうと、自分で自分の穢ないところを見るのでさえ、普通の人以上に苦痛を感ずる男であった。
・「昔から陰陽和合っていうじゃありませんか」
 「ところが陰陽和合が必然でありながら、その反対の陰陽不和がまた必然なんだから面白いじゃないか」
・彼は不用意の際に、突然としてしかも静粛に自分を驚ろかしに這入って来るお延の笑顔さえ想像した。その笑顔がまた変に彼の心に影響して来る事も彼にはよく解っていた。彼女は一刹那に閃めかすその鋭どい武器の力で、いつでも即座に彼を征服した。

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・彼はむしろ冷やかに胸の天秤を働かし始めた。彼はお延に事情を打ち明ける苦痛と、お秀から補助を受ける不愉快とを商量した。
・「お前に人格という言葉の意味が解るか。たかが女学校を卒業したぐらいで、そんな言葉をおれの前で人並に使うのからして不都合だ」
 「私は言葉に重きをおいていやしません。事実を問題にしているのです」
 「事実とは何だ。おれの頭の中にある事実が、お前のような教養に乏しい女に捕まえられると思うのか。馬鹿め」
・彼は彼に支配できる最も冷静な調子で、彼女の予期とはまるで反対の事を云った。
 「お秀お前の云う通りだ。兄さんは今改めて自白する。兄さんにはお前の持って来た金が絶対に入用だ。兄さんはまた改めて公言する。お前は妹らしい情愛の深い女だ。兄さんはお前の親切を感謝する。だからどうぞその金をこの枕元へ置いて行ってくれ」

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・彼はすでに幾分の直覚、不幸にして天が彼に与えてくれなかった幾分の直覚を、お延に許していた。その点でいつでも彼女を少し畏れなければならなかった彼には、杜撰にそこへ触れる勇気がなかった。
・彼は向うの短所ばかりに気を奪られた。そうしてその裏側へ暗に自分の長所を点綴して喜んだ。だから自分の短所にはけっして思い及ばなかったと同一の結果に帰着した。
・彼は腹の中で、噓吐な自分を肯がう男であった。同時に他人の噓をも根本的に認定する男であった。それでいて少しも厭世的にならない男であった。むしろその反対に生活する事のできるために、噓が必要になるのだぐらいに考える男であった。
・彼はお延の性質をその著るしい断面においてよく承知していた。お秀と正反対な彼女は、飽くまで素直に、飽くまで閑雅な態度を、絶えず彼の前に示す事を忘れないと共に、どうしてもまた彼の自由にならない点を、同様な程度でちゃんともっていた。
・彼にとって最も都合の好い事で、また最も都合の悪い事は、どっちにでも自由に答えられる彼の心の状態であった。というのは、事実彼はお延を愛してもいたし、またそんなに愛してもいなかったからである。
・けれども事前の夫婦は、もう事後の夫婦ではなかった。彼らはいつの間にか吾知らず相互の関係を変えていた。波瀾の収まると共に、津田は悟った。
 「畢竟女は慰撫しやすいものである」
 彼は一場の風波が彼に齎したこの自信を抱いてひそかに喜こんだ。
・いつでも敗者の位地に立った彼には、彼でまた相当の慢心があった。ところがお延のために征服される彼はやむをえず征服されるので、心から帰服するのではなかった。堂々と愛の擒になるのではなくって、常に騙し打に会っているのであった。お延が夫の慢心を挫くところに気がつかないで、ただ彼を征服する点においてのみ愛の満足を感ずる通りに、負けるのが嫌な津田も、残念だとは思いながら、力及ばず組み敷かれるたびに降参するのであった。この特殊な関係を、一夜の苦説が逆にしてくれた時、彼のお延に対する考えは変るのが至当であった。
・彼はようやく彼女を軽蔑する事ができた。同時に以前よりは余計に、彼女に同情を寄せる事ができた。

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・一方には空を凌ぐほどの高い樹が聳えていた。星月夜の光に映る物凄い影から判断すると古松らしいその木と、突然一方に聞こえ出した奔湍の音とが、久しく都会の中を出なかった津田の心に不時の一転化を与えた。彼は忘れた記憶を思い出した時のような気分になった。
 「ああ世の中には、こんなものが存在していたのだっけ、どうして今までそれを忘れていたのだろう」
 不幸にしてこの述懐は孤立のまま消滅する事を許されなかった。津田の頭にはすぐこれから会いに行く清子の姿が描き出された。彼は別れて以来一年近く経つ今日まで、いまだこの女の記憶を失くした覚がなかった。こうして夜路を馬車に揺られて行くのも、有体に云えば、その人の影を一図に追かけている所作に違なかった。
・「...自由はどこまで行っても幸福なものだ。その代りどこまで行っても片づかないものだ、だから物足りないものだ。それでお前はその自由を放り出そうとするのか。では自由を失った暁に、お前は何物を確と手に入れる事ができるのか。それをお前は知っているのか。御前の未来はまだ現前しないのだよ。お前の過去にあった一条の不可思議より、まだ幾倍かの不可思議をもっているかも知れないのだよ。過去の不可思議を解くために、自分の思い通りのものを未来に要求して、今の自由を放り出そうとするお前は、馬鹿かな利巧かな」
・思いのほかに浪漫的であった津田は、また思いのほかに着実であった。そうして彼はその両面の対照に気がついていなかった。だから自己の矛盾を苦にする必要はなかった。彼はただ決すればよかった。しかし決するまでには胸の中で一戦争しなければならなかった。――馬鹿になっても構わない、いや馬鹿になるのは厭だ、そうだ馬鹿になるはずがない。――
・彼女は蒼くなった。彼女は硬くなった。津田はそこに望みを繫いだ。今の自分に都合の好いようにそれを解釈してみた。それからまたその解釈を引繰返して、反対の側からも眺めてみた。両方を眺め尽した次にはどっちが合理的だろうという批判をしなければならなくなった。その批判は材料不足のために、容易に纏まらなかった。纏ってもすぐ打ち崩された。一方に傾くと彼の自信が壊しに来た。他方に寄ると幻滅の半鐘が耳元に鳴り響いた。
・彼は苦笑しながら、昨夕と今朝の間に自分の経過した変化を比較した。
・彼女はいつでも優悠していた。どっちかと云えばむしろ緩漫というのが、彼女の気質、またはその気質から出る彼女の動作について下し得る特色かも知れなかった。彼は常にその特色に信を置いていた。そうしてその特色に信を置き過ぎたため、かえって裏切られた。少くとも彼はそう解釈した。そう解釈しつつも当時に出来上った信はまだ不自覚の間に残っていた。
・ナイフの持ち方、指の運び方、両肘を膝とすれすれにして、長い袂を外へ開いている具合、ことごとくその時の模写であったうちに、ただ一つ違うところのある点に津田は気がついた。それは彼女の指を飾る美くしい二個の宝石であった。もしそれが彼女の結婚を永久に記念するならば、そのぎらぎらした小さい光ほど、津田と彼女の間を鋭どく遮ぎるものはなかった。柔婉に動く彼女の手先を見つめている彼の眼は、当時を回想するうっとりとした夢の消息のうちに、燦然たる警戒の閃めきを認めなければならなかった。
・その顔をじっと見守った清子の眼に、判然した答を津田から待ち受けるような予期の光が射した。彼はその光に対する特殊な記憶を呼び起した。
 「ああこの眼だっけ」
 二人の間に何度も繰り返された過去の光景が、ありありと津田の前に浮き上った。その時分の清子は津田と名のつく一人の男を信じていた。だからすべての知識を彼から仰いだ。あらゆる疑問の解決を彼に求めた。自分に解らない未来を挙げて、彼の上に投げかけるように見えた。したがって彼女の眼は動いても静であった。何か訊こうとするうちに、信と平和の輝きがあった。彼はその輝きを一人で専有する特権をもって生れて来たような気がした。自分があればこそこの眼も存在するのだとさえ思った。





お延

・その一重瞼の中に輝やく瞳子は漆黒であった。だから非常によく働らいた。或時は専横と云ってもいいくらいに表情を恣ままにした。津田は我知らずこの小さい眼から出る光に牽きつけられる事があった。そうしてまた突然何の原因もなしにその光から跳ね返される事もないではなかった。
・好んでこういう場所へ出入したがる彼女にとって、別に珍らしくもないこの感じは、彼女にとって、永久に新らしい感じであった。だからまた永久に珍らしい感じであるとも云えた。彼女は暗闇を通り抜けて、急に明海へ出た人のように眼を覚ました。そうしてこの氛囲気の片隅に身を置いた自分は、眼の前に動く生きた大きな模様の一部分となって、挙止動作共ことごとくこれからその中に織り込まれて行くのだという自覚が、緊張した彼女の胸にはっきり浮んだ。
・「良人というものは、ただ妻の情愛を吸い込むためにのみ生存する海綿に過ぎないのだろうか」 これがお延のとうから叔母にぶつかって、質して見たい問であった。
・いったん世間に向ったが最後、どこまでも夫の肩を持たなければ、体よく夫婦として結びつけられた二人の弱味を表へ曝すような気がして、恥ずかしくていられないというのがお延の意地であった。
・すべての噂のうちで、愚鈍という非難を、彼女は火のように恐れていた。
・女として男に対する腕をもっていないと自白するのは、人間でありながら人間の用をなさないと自白するくらいの屈辱として、お延の自尊心を傷けたのである。
・「あなたは私より純潔です。私が羨やましがるほど純潔です。けれどもあなたの純潔は、あなたの未来の夫に対して、何の役にも立たない武器に過ぎません。私のように手落なく仕向けてすら夫は、けっしてこっちの思う通りに感謝してくれるものではありません。あなたは今に夫の愛を繫ぐために、その貴い純潔な生地を失わなければならないのです。それだけの犠牲を払って夫のために尽してすら、夫はことによるとあなたに辛くあたるかも知れません。私はあなたが羨ましいと同時に、あなたがお気の毒です。近いうちに破壊しなければならない貴い宝物を、あなたはそれと心づかずに、無邪気にもっているからです。幸か不幸か始めから私には今あなたのもっているような天然そのままの器が完全に具わっておりませんでしたから、それほどの損失もないのだと云えば、云われないこともないでしょうが、あなたは私と違います。あなたは父母の膝下を離れると共に、すぐ天真の姿を傷けられます。あなたは私よりも可哀相です」
・女らしいところがなくなってしまったのに、まだ女としてこの世の中に生存するのは、真に恐ろしい生存であるとしか若い彼女には見えなかった。
・「いやお前にはちょっと千里眼らしいところがあるよ。だから皆なが訊きたがるんだよ」
・冒頭から結末に至るまで、彼女はいつでも彼女の主人公であった。また責任者であった。自分の料簡をよそにして、他人の考えなどを頼りたがった覚はいまだかつてなかった。
・「女は一目見て男を見抜かなければいけない」 彼女はかつてこんな事を云って、無邪気な継子を驚ろかせた。彼女はまた充分それをやり終せるだけの活きた眼力を自分に具えているものとして継子に対した。
・四方を見廻したお延は、従妹と共に暮した処女時代の匂を至る所に嗅いだ。甘い空想に充ちたその匂が津田という対象を得てついに実現された時、忽然鮮やかな燄に変化した自己の感情の前に抃舞したのは彼女であった。眼に見えないでも、瓦斯があったから、ぱっと火が点いたのだと考えたのは彼女であった。空想と現実の間には何らの差違を置く必要がないと論断したのは彼女であった。
・「あるのよ、あるのよ。ただ愛するのよ、そうして愛させるのよ。そうさえすれば幸福になる見込はいくらでもあるのよ」 こう云ったお延の頭の中には、自分の相手としての津田ばかりが鮮明に動いた。

--

・強い意志がお延の身体全体に充ち渡った。朝になって眼を覚ました時の彼女には、怯懦ほど自分に縁の遠いものはなかった。寝起の悪過ぎた前の日の自分を忘れたように、彼女はすぐ飛び起きた。夜具を跳ね退けて、床を離れる途端に、彼女は自分で自分の腕の力を感じた。朝寒の刺戟と共に、締まった筋肉が一度に彼女を緊縮させた。
・愛する人が自分から離れて行こうとする毫釐の変化、もしくは前から離れていたのだという悲しい事実を、今になって、そろそろ認め始めたという心持の変化。
・彼女の見た平生の夫には自制の念がどこへでもついて廻った。自制ばかりではなかった。腹の奥で相手を下に見る時の冷かさが、それにいつでも付け加わっていた。彼女は夫のこの特色中に、まだ自分の手に余る或物が潜んでいる事をも信じていた。それはいまだに彼女にとっての未知数であるにもかかわらず、そこさえ明暸に抑えれば、苦もなく彼を満足に扱かい得るものとまで彼女は思い込んでいた。
・彼女は肉の上に浮び上ったその微笑が何の象徴であるかをほとんど知らなかった。ただ一種の恰好をとって動いた肉その物の形が、彼女には嬉しい記念であった。彼女は大事にそれを心の奥にしまい込んだ。
・彼を愛する事によって、是非共自分を愛させなければやまない。――これが彼女の決心であった。
・彼女から見れば不慮の出来事と云わなければならないこの破綻は、取も直さず彼女にとって復活の曙光であった。彼女は遠い地平線の上に、薔薇色の空を、薄明るく眺める事ができた。そうしてその暖かい希望の中に、この破綻から起るすべての不愉快を忘れた。小林の残酷に残して行った正体の解らない黒い一点、それはいまだに彼女の胸の上にあった。お秀の口から迸ばしるように出た不審の一句、それも疑惑の星となって、彼女の頭の中に鈍い瞬きを見せた。しかしそれらはもう遠い距離に退いた。少くともさほど苦にならなかった。耳に入れた刹那に起った昂奮の記憶さえ、再び呼び戻す必要を認めなかった。

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・お延は自分で自分の理窟を行為の上に運んで行く女であった。だから平生彼女の議論をしないのは、できないからではなくって、する必要がないからであった。
・虚栄心の強い割に、その方面の欲望があまり刺戟されずにすんでいるのは、暇が乏しいからでもなく、競争の話し相手がないからでもなく、全く自分に大した不足を感じないからであった。
・お延はそれ以上にまだ敏い気を遠くの方まで廻していた。彼女は自分に対して仕組まれた謀計が、内密にどこかで進行しているらしいとまで癇づいた。
・お延は日のとぼとぼ頃に宅へ帰った。電車から降りて一丁ほどの所を、身に染みるような夕暮の靄に包まれた後の彼女には、何よりも火鉢の傍が恋しかった。
・なぜ心に勝っただけで、彼女は美くしく切り上げられないのだろうか。なぜ凱歌を形の上にまで運び出さなければ気がすまないのだろうか。今の彼女にはそんな余裕がなかったのである。この勝負以上に大事なものがまだあったのである。第二第三の目的をまだ後に控えていた彼女は、ここを突き破らなければ、その後をどうする訳にも行かなかったのである。それのみか、実をいうと、勝負は彼女にとって、一義の位をもっていなかった。本当に彼女の目指すところは、むしろ真実相であった。夫に勝つよりも、自分の疑を晴らすのが主眼であった。そうしてその疑いを晴らすのは、津田の愛を対象に置く彼女の生存上、絶対に必要であった。それ自身がすでに大きな目的であった。ほとんど方便とも手段とも云われないほど重い意味を彼女の眼先へ突きつけていた。
・大きな自然は、彼女の小さい自然から出た行為を、遠慮なく蹂躙した。一歩ごとに彼女の目的を破壊して悔いなかった。彼女は暗にそこへ気がついた。けれどもその意味を悟る事はできなかった。彼女はただそんなはずはないとばかり思いつめた。そうしてついにまた心の平静を失った。
・夫の愛が自分の存在上、いかに必要であろうとも、頭を下げて憐みを乞うような見苦しい真似はできないという意地に過ぎなかった。もし夫が自分の思う通り自分を愛さないならば、腕の力で自由にして見せるという堅い決心であった。のべつにこの決心を実行して来た彼女は、つまりのべつに緊張していると同じ事であった。そうしてその緊張の極度はどこかで破裂するにきまっていた。破裂すれば、自分で自分の見識をぶち壊すのと同じ結果に陥いるのは明暸であった。不幸な彼女はこの矛盾に気がつかずに邁進した。それでとうとう破裂した。破裂した後で彼女はようやく悔いた。仕合せな事に自然は思ったより残酷でなかった。彼女は自分の弱点を浚け出すと共に一種の報酬を得た。今までどんなに勝ち誇っても物足りた例のなかった夫の様子が、少し変った。
・彼は明らかに妥協という字を使った。その裏に彼女の根限り掘り返そうと力めた秘密の潜在する事を暗に自白した。自白?。彼女はよく自分に念を押して見た。そうしてそれが黙認に近い自白に違いないという事を確かめた時、彼女は口惜しがると同時に喜こんだ。彼女はそれ以上夫を押さなかった。津田が彼女に対して気の毒という念を起したように、彼女もまた津田に対して気の毒という感じを持ち得たからである。





お秀

・お秀はまた金はどうでもよかった。しかし兄に頭を下げさせたかった。
・「どうして兄さんはこの頃そんなに皮肉になったんでしょう。どうして昔のように人の誠を受け入れて下さる事ができないんでしょう」
 「兄さんは昔とちっとも違ってやしないよ。近頃お前の方が違って来たんだよ」
・もう一息で懺悔の深谷へ真ッ逆さまに突き落すつもりでいた彼女は、まだ兄の後に平坦な地面が残っているのではなかろうかという疑いを始めて起した。
・「...よござんすか、あなた方お二人は御自分達の事よりほかに何にも考えていらっしゃらない方だという事だけなんです。自分達さえよければ、いくら他が困ろうが迷惑しようが、まるでよそを向いて取り合わずにいられる方だというだけなんです」
・「...しかし多分あなた方には解らないでしょう。あなた方はけっして他の親切を受ける事のできない人だという意味に、多分御自分じゃ気がついていらっしゃらないでしょうから。こう云っても、あなた方にはまだ通じないかも知れないから、もう一遍繰り返します。自分だけの事しか考えられないあなた方は、人間として他の親切に応ずる資格を失なっていらっしゃるというのが私の意味なのです。つまり他の好意に感謝する事のできない人間に切り下げられているという事なのです。...」
・彼から見た妹は、親切でもなければ、誠実でもなかった。愛嬌もなければ気高くもなかった。ただ厄介なだけであった。
・お秀にはどこか片意地で一本調子な趣があった。それに一種の刺戟が加わると、平生の落ちつきが全く無くなって、不断と打って変った猛烈さをひょっくり出現させるところに、津田とはまるで違った特色があった。
・ 平たく云えば、我がつまり自分の本体であるのに、その本体に副ぐわないような理窟を、わざわざ自分の尊敬する書物の中から引張り出して来て、そこに書いてある言葉の力で、それを守護するのと同じ事に帰着した。





小林

・一面において当然迂濶な人生批評家でなければならないと同時に、一面においてははなはだ鋭利な観察者であった。そうしてその鋭利な点はことごとく彼の迂濶な所から生み出されていた。言葉を換えていうと、彼は迂濶の御蔭で奇警な事を云ったり為たりした。
・「彼らは君や探偵よりいくら人間らしい崇高な生地をうぶのままもってるか解らないぜ。ただその人間らしい美しさが、貧苦という塵埃で汚れているだけなんだ。つまり湯に入れないから穢ないんだ。馬鹿にするな」
・「君は僕が汚ない服装をすると、汚ないと云って軽蔑するだろう。またたまに綺麗な着物を着ると、今度は綺麗だと云って軽蔑するだろう。じゃ僕はどうすればいいんだ。どうすれば君から尊敬されるんだ。後生だから教えてくれ。僕はこれでも君から尊敬されたいんだ」
・「もったいない事をいうな。君の落ちつけないのは贅沢だからさ。僕のは死ぬまで麵麭を追かけて歩かなければならないんだから苦しいんだ」
 「しかし落ちつけないのは、現代人の一般の特色だからね。苦しいのは君ばかりじゃないよ」

--

・「やッぱり細君の力には敵いませんね、どんな男でも。――僕のような独身ものには、ほとんど想像がつかないけれども、何かあるんでしょうね、そこに」
・「...実を云うと、僕には細君がないばかりじゃないんです。何にもないんです。親も友達もないんです。つまり世の中がないんですね。もっと広く云えば人間がないんだとも云われるでしょうが」
・お延の心はこの不思議な男の前に入り乱れて移って行った。一には理解が起らなかった。二には同情が出なかった。三には彼の真面目さが疑がわれた。反抗、畏怖、軽蔑、不審、馬鹿らしさ、嫌悪、好奇心、――雑然として彼女の胸に交錯したいろいろなものはけっして一点に纏まる事ができなかった。したがってただ彼女を不安にするだけであった。
・この侮蔑の裏には、まだ他に向って公言しない大きな因子があった。それは単に小林が貧乏であるという事に過ぎなかった。彼に地位がないという点にほかならなかった。
・「そんな卑怯な――」
 「卑怯じゃありません。責任のない所に卑怯はありません」

--

・「...僕は誰と喧嘩したって構わない男だ。誰と喧嘩したって損をしっこない境遇に沈淪している人間だ。喧嘩の結果がもしどこかにあるとすれば、それは僕の損にゃならない。何となれば、僕はいまだかつて損になるべき何物をも最初からもっていないんだからね。要するに喧嘩から起り得るすべての変化は、みんな僕の得になるだけなんだから、僕はむしろ喧嘩を希望してもいいくらいなものだ。けれども君は違うよ。...」
・「いったい今の僕にゃ、仏蘭西料理だから旨いの、英吉利料理だから不味いのって、そんな通をふり廻す余裕なんかまるでないんだ。ただ口へ入るから旨いだけの事なんだ」
 「だってそれじゃなぜ旨いんだか、理由が解らなくなるじゃないか」
 「解り切ってるよ。ただ飢じいから旨いのさ。その他に理窟も糸瓜もあるもんかね」
・「...君と僕さ。二人を見較べればすぐ解るだろう、余裕と切迫で代表された生活の結果は」
・「...僕は今君の御馳走になって、こうしてぱくぱく食ってる仏蘭西料理も、この間の晩君を御招待申して叱られたあの汚ならしい酒場の酒も、どっちも無差別に旨いくらい味覚の発達しない男なんだ。そこを君は軽蔑するだろう。しかるに僕はかえってそこを自慢にして、軽蔑する君を逆に軽蔑しているんだ。...」
・「...人間の境遇もしくは位地の懸絶といったところで大したものじゃないよ。本式に云えば十人が十人ながらほぼ同じ経験を、違った形式で繰り返しているんだ。それをもっと判然云うとね、僕は僕で、僕に最も切実な眼でそれを見るし、君はまた君で、君に最も適当な眼でそれを見る、まあそのくらいの違だろうじゃないか。...」
・「...いかに痴鈍な僕といえども、現在の自分に対してはこれで血の代を払ってるんだ」
・「...今に君がそこへ追いつめられて、どうする事もできなくなった時に、僕の言葉を思い出すんだ。思い出すけれども、ちっとも言葉通りに実行はできないんだ。これならなまじいあんな事を聴いておかない方がよかったという気になるんだ」
 津田は厭な顔をした。
 「馬鹿、そうすりゃどこがどうするんだ」
 「どうしもしないさ。つまり君の軽蔑に対する僕の復讐がその時始めて実現されるというだけさ」
・「...君には余裕があり過ぎる。その余裕が君をしてあまりに贅沢ならしめ過ぎる。その結果はどうかというと、好きなものを手に入れるや否や、すぐその次のものが欲しくなる。好きなものに逃げられた時は、地団太を踏んで口惜しがる」
 「いつそんな様を僕がした」
 「したともさ。それから現にしつつあるともさ。それが君の余裕に祟られている所以だね。僕の最も痛快に感ずるところだね。貧賤が富貴に向って復讐をやってる因果応報の理だね」
・「強情だな。僕と戦うんじゃないぜ」
 「じゃ誰と戦うんだ」
 「君は今すでに腹の中で戦いつつあるんだ。それがもう少しすると実際の行為になって外へ出るだけなんだ。余裕が君を煽動して無役の負戦をさせるんだ」
・「いくら大きくしたって、金をやらなければならないという義務なんか感じやしないよ」
 「そうだろう、君の事だから。しかし同情心はいくらか起るだろう」
 「そりゃ起るにきまってるじゃないか」
 「それでたくさんなんだ、僕の方は。同情心が起るというのはつまり金がやりたいという意味なんだから。それでいて実際は金がやりたくないんだから、そこに良心の闘いから来る不安が起るんだ。僕の目的はそれでもう充分達せられているんだ」
 こう云った小林は、手紙を隠袋へしまい込むと同時に、同じ場所から先刻の紙幣を三枚とも出して、それを食卓の上へ並べた。
 「さあ取りたまえ。要るだけ取りたまえ」
 彼はこう云って原の方を見た。
・「...しかしこれは何でもないんだ。余裕が空間に吹き散らしてくれる浄財だ。拾ったものが功徳を受ければ受けるほど余裕は喜こぶだけなんだ。ねえ津田君そうだろう」





吉川夫人

・「あなたは延子さんをそれほど大事にしていらっしゃらないくせに、表ではいかにも大事にしているように、他から思われよう思われようとかかっているじゃありませんか」
・その上普通の人と違って夫人はどんな難題を持ち出すか解らなかった。自由の利き過ぎる境遇、そこに長く住み馴れた彼女の眼には、ほとんど自分の無理というものが映らなかった。云えばたいていの事は通った。たまに通らなければ、意地で通すだけであった。
・「これでも未練があるように見えますか」
 「そりゃ見えないわ、あなた」
 「じゃどうしてそう鑑定なさるんです」
 「だからよ。見えないからそう鑑定するのよ」
 夫人の論議は普通のそれとまるで反対であった。と云って、支離滅裂はどこにも含まれていなかった。彼女は得意にそれを引き延ばした。
 「ほかの人には外側も内側も同なじとしか見えないでしょう。しかし私には外側へ出られないから、仕方なしに未練が内へ引込んでいるとしか考えられませんもの」
・「そんならその時のあっの始末はどうつける気なの」
 「別につけようがないんです」
 「つけようがないけれども、実はつけたいんでしょう」
 「ええ。だからいろいろ考えたんです」
 「考えて解ったの」
 「解らないんです。考えれば考えるほど解らなくなるだけなんです」
 「それだから考えるのはもうやめちまったの」
 「いいえやっぱりやめられないんです」
 「じゃ今でもまだ考えてるのね」
 「そうです」
 「それ御覧なさい。それがあなたの未練じゃありませんか」
 夫人はとうとう津田を自分の思うところへ押し込めた。
・「男らしくするとは?――どうすれば男らしくなれるんですか」
 「あなたの未練を晴らすだけでさあね。分り切ってるじゃありませんか」
 「どうして」
 「全体どうしたら晴らされると思ってるんです、あなたは」
 「そりゃ私には解りません」
 夫人は急に勢い込んだ。
 「あなたは馬鹿ね。そのくらいの事が解らないでどうするんです。会って訊くだけじゃありませんか」
・「...行って天然自然来たような顔をして澄ましているんです。そうして男らしく未練の片をつけて来るんです」
・「お待ちなさい。――あなたは勇気はあるという気なんでしょう。しかし出るのは見識に拘わるというんでしょう。私から云えば、そう見識ばるのが取りも直さずあなたの臆病なところなんですよ、好ござんすか。なぜと云って御覧なさい。そんな見識はただの見栄じゃありませんか。よく云ったところで、上っ面の体裁じゃありませんか。世間に対する手前と気兼を引いたら後に何が残るんです。...」
・「あなたはいつまでも品よく黙っていようというんです。じっと動かずにすまそうとなさるんです。それでいて内心ではあの事が始終苦になるんです。...」





夏目 漱石, "明暗", 岩波書店, 1917.





"Predictive Coding for Dynamic Vision Development of Functional Hierarchy in a Multiple Spatio-Temporal Scales RNN Model",
M. Choi and J. Tani, arXiv:1606.01672v2 [cs.CV], 8 Jun 2016.
URL: https://arxiv.org/abs/1606.01672


1. Introduction
・Predictive codingは、人間の脳が行う予測を模したモデルである。
Top-down: 高レベルの注意によって引き起こされる低レベルの知覚
Bottom-up: 予測誤差によって推測される現在の知覚に対応する注意
・Predictive codingの枠組みにおける仮定
知覚パターンは、より高レベルの注意状態に対応してエンコードされる 。
機能的に必要な階層は、複数の皮質領域を通して発展する 。
・研究目的
動的な視覚パターンのロバストな認識と生成を行うために十分な時空間階層は、どのように発展するのか?
新しいPredictive coding型のRNNモデルの提案
ネットワーク全体の神経活動が、時空間スケール特性に応じて複数階層で同時にチューニングされるとき、動的な視覚パターンをピクセルレベルで取り扱う。

・提案手法
予測的複時空間スケールRNN(Predictive multiple spatio-temporal scales RNN; P-MSTRNN)
・先行例モデルとの差分
動的視覚処理 (時空間の処理が同時に行われるため)
・学習とテストに用いられる映像データセット
複数被験者による構造化された動きの周期的なパターン
・シミュレーション実験結果
学習による時空間階層のパラメータは、動きの構造に対応したパターンで発展する。
テストデータのロバストな認識は、変動の多い標本に相互依存する。



2. Model
・P-MSTRNNは、MSTRNN(Multiple spatio-temporal scales RNN)を基本とする。
 MSTRNNにPredictive codingの枠組みを導入する。



2. 1 Architecture
・P-MSTRNNは、Context層と、底にあるInput/Output層から構成される。 (Fig. 1)
・Context層: 高次層からTop-down信号を受け取ることにより、次時間ステップにおける自身のNeural stateを予測する。
1st Context層は、現在の視覚入力と2nd層からのTop-down信号を受け取ることにより、次ステップの視覚入力を予測する。
それぞれのContext層において、高次層方向には予測誤差が逆伝搬し、結合重みとIntentionが更新される。
モデルは、Convolutional neural network (CNN)とは少し異なり、1つの層は機能的に異なる2つのUnitから構成される。
・2つのUnit: Feature unitとContext unit
前時間の値を反映させていくLeaky integratorの導入により、時間的階層の構築を可能とする。
・同層のFeature unitとContext unitは、Feature map(FM)とContext map(CM)を形成する。
FM: 近くのFMから神経入力を受け取ることによって、空間処理に貢献
CM: Recurrent結合によって、動的情報処理に貢献
Leaky integratorのDecay rateを決める時定数はすべての層にある。
・低次層は時定数小、高次層は時定数大
低次層のContext層の神経活動は早い反応を示し、高次層は遅い反応を示す。

・1st層のFMのダイナミクス: (1)(2)式
第1項: (1-1/τ^l)の割合で、t-1秒からFMがDecayしていく遷移状態
第2項: l+1層のFMから現在のFMへの入力
第3項: 前時間ステップt-1の同じCMから今のCMへの入力
第4項: 現在のFMへ送り込むデータフレーム
・FM内部状態の計算終了後、Activation値がTanh関数で得られる。

・CMのダイナミクス: (3)(4)式
第1項: t-1からのLeaky integrator入力
第2項: 前のステップからのRecurrent入力
第3項: l+1層のFMからの入力
第4項:低層からのボトムアップ入力
・FMと同様、CM内部状態の計算終了後、Activation値がTanh関数で得られる。

・畳み込みの計算を行う際、入力の大きさが出力の大きさよりも小さい時がある。
 その時は、Zero-paddingをした入力Mapが用いられる。
 積計算が要素ごとに行われるため、行列の大きさは等しくする。

・出力層のダイナミクス: (5)(6)式
出力の内部状態は、1st層のFM畳み込みによって計算される。
出力層のActivation値は、Tanh関数で計算される。

2.2 Learning, generation and recognition
・ネットワークの学習: 開ループ生成法(Open loop generation method)
ネットワーク外から現在のフレーム入力を受け、出力フレームとして1つあるいは複数の推測フレームを生成する。
その後、出力フレームと推測フレームとの間の誤差が全ての時間ステップで計算される。
・誤差は、Back-propagation through time(BPTT)法が用いられ、パラメータの最適化を行う。
重み、カーネル、バイアス、Context層の内部状態はGradient descent法を用いて最適化される。
・Open loop generationに加えて、Closed loop generationも行われる。
次ステップの出力予測には、前ステップの出力予測を用いる。
後者は前時間ステップの誤差の和となるため、誤差が大きい。
学習は、Closed loop generationの誤差が事前に決めた閾値を下回った時に終わる。

・初期値は重要。推定値を用いる。



3. Experiment
・データセット: 階層的に定義された構造に従う全身の動きのパターン
全体の動きのPrimitiveは、Sub-primitiveによって構成される。
・実験1: 時空間階層の自己組織を解析
被験者1人の6 Primitive動作の学習モデル
その後、追加的な動作の連結を学習
・実験2: モデルによる認識のケーパビリティ
認識のロバスト性がどのくらい標本パターンの変動に依存するか
被験者数増加

3.1 実験1
・データセット: 1名の被験者の全身の動きに関する6パターン
・Action primitive(P1-P6)は、Sub-primitiveによって階層的に定義される。
Arm sub-primitive、Leg sub-primitiveはそれぞれ3種類からなる。(A1,A2,A3,L1,L2,L3)
Action primitiveにおいては、各Sub-primitiveは2回ずつ含まれる。
追加学習データは、P1とP5を交互に3回繰り返す。
・ネットワーク構造
0th: Input/output層
残り: context層
Learning rate: 0.001



・学習ステージ1: 6Primitiveの学習
Closed loop errorが閾値以下になったら終了



・学習ステージ2: 追加的に6Primitiveの学習
Closed loop errorが閾値以下になったら終了



・Fig5: 異なる層の神経Activation, PCAの1次元目と2次元目
5A
左: 6Primitiveに対応する第1層におけるCMの神経活動
右: 追加時のCMの神経活動
5B
左: 6Primitiveに対応する第3層におけるFMの神経活動
右: 追加時のCMの神経活動
6Primitive
CM: サイクルパターン
FM: 中心から始まり、固定された6点に収束するパターン
追加的連結時
CM: 同じ位置、同じ形
FM: 収束ではなくサイクルパターン


3.2 実験2
・実験1との違い
Learning rate: 0.1
窓幅: 20
初期状態推定: 100回ごと
・データセット
3パターンの動き(P1,P4,P5)
5人の被験者
体型や身長の異なる被験者間で、速さに15%の変動がある。
・データセットのばらつきの確認
条件1: 5人のデータセットでネットワークを学習
条件2: 1人のデータセットでネットワークを学習
評価: 学習データに含まれない3人で、3Primitiveのすべてを含む遷移列(P1-P4-P5-P1-P4-P1)において、誤差回帰による擬似入力と比較する。

・Fig7: 660ステップあたりの入出力の誤差の比較
Context activityの変調も含み、誤差は遷移に伴って急激に上昇する。
遷移の後、誤差はほとんど0になった。
また、第4層と比較して第1層は急激な変化をする。
層の増加によって時定数が増えるためであることと、第1層は時定数が最も小さいため、比較的速いActivation変化を示すと考えられる。

・条件1と条件2の比較
データセットは1人より、複数被験者による学習条件の方が低MSEとなる。
そのため、学習データのバリエーションがあるほうがロバスト性が高いと考えられる。
これは、より低次元データを用いた先行例と同じ結果を示した。



・5人の被験者の微妙な違いがClosed loopの出力に現れる
低次層では、同じ動きがクラスタを形成すると同時に、同じ動きで異なる被験者の神経Activationの変動がよく保存される。
高次層では、実験1と同様、異なる固定点へ収束した。
これは、低次層ががサイクル的な挙動をするのに比較して、それぞれのPrimitiveに対応する3つのクラスタが形成され、
クラスタ中でも、被験者間変動を反映し、異なる点へ収束するためであると考えられる。
高次層は、ロバストなクラスタ内の固定点によって、多かれ少なかれ低次層に影響する。

4. Conclusion
・新しい動的ニューラルネットモデルの提案
ピクセルレベルで動的視覚画像パターンの生成・認識を行った。
Predictive codingの枠組みを導入した。
・結果
複時空間スケール特徴によって特徴づけられたネットワークモデルは、内部時空間階層化によって学習される。
モデルは、学習データにない被験者の動きのパターンもロバストに認識可能である。
・今後の課題
モデルのスケーリングに着目
ピクセル数の大きい画像
動きのPrimitive数
動きのPrimitiveの複雑さ



現在は体験の総合的な交点として更新され続けている。

人格を、乾季に干上がった地面に標高の高い地点からの水流がもたらされて形成される途中の河道、と喩えると、
経過時間で切り出してきた人格には、いくつもの分水界が存在する。
圧倒的な流量を誇ると思い込んでいた本流に、思わぬ副流がぶつかってきて、
進行方向を変えさせられてしまうことも多い。
インパクトのある水流は、目の前に突然に湧き上がってくるというよりは、
意識の外で、遠い昔から粛々と流れを進めているように思える。
そういった水流が同時並行的に何本も流れていて、
ある瞬間瞬間に統合されながら、人格が形成されるというイメージを持っている。
そして、そこに認識が伴うと様々な人格(水界)を自由に引き出せるのではないか。

最近、特別に認識していなかった副流のひとつに読書体験があるのに気づいた。
ここでいう読書体験は、総体としての読書体験とそれらの本ひとつひとつに分類される。
いつからだろうか、不思議なほどに現在は重視していなかったが、
大学生時代は理由のない使命感で読書に没頭し、その莫大なエネルギーの消費があった。
過去を否定することによって現在の優位性を保とうとする弱い心の働きのためか、
ただ濃密であっただけで、数や固有名詞で表面的に主張できる部分がなかったからか、は分からない。
もちろん、本で読んだことが与える現在への影響(当たり前)を考えないわけではなかった。
ただ、思えば積極的・方法的な姿勢がなかったかもな、というのはちょっとした発見である。

ということを考えたのも、昔の読書記録を見返していたからである。
特に、狂気じみた島尾敏雄の私小説「死の棘」を、狂気じみたFlower travellin' band「Satori」を聴きながら読んでいた、
怨念に包まれた夏休みの夕暮れ時、蒸し暑く密閉された自室の記憶が生々しく蘇った。
たまたま読んだ本と、たまたま聴いた音楽、たまたま陥った状況、あの体験が自分の貞操観念に影を落としているような気がした。
今年は著名人の不貞が問題になることがよくあって、そういったニュースに関連した人々のリアクションに気を揉んでしまう。
不貞の輩を許せないといった単純な問題ではなく、
色恋沙汰そのものに対する異常なまでの拒否感と異常なまでの執着を同時に発揮している。

文章を書きだすとキリがないのでやめますが、とりあえず電子書籍を購入しようと考えている。



-------

「死にますとも。...けどあなたとちがってあたしは生涯をかけてあなたひとりしか知らないんですからね。...

妻の服従を少しもうたがわず、妻は自分の皮膚の一部だとこじつけて思い、自分の弱さと暗い部分を彼女に皺寄せして、それに気づかずにいた。

立てこんだひらやの家々が寝しずまっている暗い路地に立ちどまって、かさねてなんべんも妻の肉を打っていると、苦行のにおいがただよってきてむなしさがふくれあがり、...

それは既に発作のはじまりかけた目つきなのだ。

「...あなたはこれがあたしの復讐だなどとおっしゃるの?復讐はこんななまやさしいものじゃありません。...

きちがいを装うことを私は覚えてきた。それはひどくみにくいが、妻が発作を起こすと、それをしないではいられなくなる。

徐々にではあるが、自殺の方法をあれこれ考えている自分に気づくことが多くなり、私は自分を見直す思いだ。...いつもはいちばん嫌悪があり、またできそうもない刃物による自殺が、今はむしろ鮮潔な結末があって、おそらくぶざまなその最期の現場に飛びちる血のりは、私の汚れの幾分かを洗ってくれるかもしれない気がしてき、...

さわぎの最中に、妻が笑い出すか、あくびをすると、私たちに正気がもどってきて、抱き合って涙ぐみ、お互いに、かわいそうだ、かわいそうだ、ごめんなさい、と言い合う。

「カテイノジジョウ、しないでよ」...「ぼく、たのしいことなんてもうなくなっちゃった。たのしくってもこころから笑えないんだ」などと言うのだ。...「アタチダッテ、カンガエテイルンダカラ」とにこりともしないで言った。

妻は波のように次々に押しよせてくる不信のたよりなさに耐えられず、確かな自分をしっかりつかみたいのに、突きあげてくる狂操をおさえることができず、たよりなげな悲しみをむきだしにしている。

妻は自分が死んでも私が追い死になどしないであとに残り、長く長く生きのびるにちがいないということがわかっているかのようだ。

私の最後の隠しごとが、今あばかれる!あばかれることはいいとして、妻の前に、行為としての隠しごとは、すべて追い出したはずであったのに。...結局出さなければならぬと知りながら、そらとぼけて時間をのばしていると、そんなにしてまでひとつのうそを守ろうとする自分の暗い情熱に絶望の思いが湧いてくる。

毎日がまるで死のからだを撫でているみたいだ。

私のゆがんだ生活がこどもらに与えてしまった歪みを、どう見つけだしそして直していけばよいかを考えると暗澹となった。

他人の前でも発作をおさめない新しい妻の症状に、奈落の底に突き落とされた気持を味わっていた。

ずっと遠道になるが、できるだけ家族だけで過ごす新しい過去を作っておかなければならぬ。私に残された手段は、時を身方にすることだけだと気づいてきたようなのだ。

「トシオ、早く早くこれをとって」と突き出す足の裏を見ると、長い棘が突きささっている。...「根っこを残さないでちゃんと抜いてくれなくちゃいやよ」

島尾 敏雄, "死の棘", 新潮文庫 (1981).



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